第57章 薬浸りの人

黒服の女は眉ひとつ動かさず、左手のナイフを握り込んだまま突っ込んできた。

工藤達央に肉薄しようとした、その瞬間――咲子が背後から踏み込み、拳を叩き込む。

ドンッ。

背中に入った一撃だけで、黒服の女は血を吐き、その場で意識を失って崩れ落ちた。

咲子は生まれつき怪力だ。全力ではない。それでも、常人の想像を軽々と超える。

相手も鍛えた身体をしているらしく、見た目ほど致命傷ではない。しばらくすれば目を覚ますだろう。

工藤達央は咲子に指示した。

「服を探れ。身元が分かるものがあるかもしれない」

だが、出てきたのは空っぽのポケットだけ。身分証も、連絡先も、何ひとつない。

厄介だ、と工藤...

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